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病気をしてから幼い頃のことをよく思い出すようになった。
そういう時に脳裏に浮かぶのが
「はるかな國 とほい昔」ハドスン著 壽丘しず譯 岩波文庫
の最初の書き出しだ。
自叙伝を書いてみようなどという心組は更々なく思い出すことはもう既に書いたと思っていたのに、重病になって寝込んだ時にふと幼年時代の追憶がかつて覚えたことがないほど、生き生きと蘇り夢中になって書いたのがこの本だと記されている。
私がこの本を買ったのは女学校3年生の頃だったと思う。
題名から想像するような甘く美しい想い出ではなく苛酷な事柄が多かったが子どもだった私には老年になってこういうことを書く心境ってどんな感じなのだろうと興味があった。
パソコン机の脇の書棚から手に取ったこの本は後に買ったものだ。
最初の本は旧制の高校に進学した兄が珍しく私に手紙で「この本が英語のテキストになっているから送って欲しい」と言って来たので喜んで郵送した。
今あるのは昭和二十九年発行の第十一刷だ。
古本屋で懐かしくて買ったのだろう、恐ろしく黄ばんでいる。
まだ岩波文庫特有の星マークがついていて
昭和二十五年一月設定 ★一つ参拾圓
昭和二十六年六月設定 ★一つ四拾圓
この本は★★★★で百六拾圓だ。
子どもの頃はこの★が二十銭だったと記憶している。
だから二圓のお小遣いで岩波文庫なら何冊か買えた。
戦後の出版だから題名は左から右に向けて書かれている。
戦前は横書きの題名は右から左へだった。
ちょっと捜してみたら
「荒野に生まれて(白い牙)」ジャック・ロンドン
「ジャングル ブック」キップリング
「新アラビア夜話」スティーヴンスン
「ガリヴァの航海」上下 スウィフト
「イエス」 ブッセ
などなど戦前の本が。 写すにも骨が折れる。
日曜学校の帰りに隣街の大きな書店で岩波文庫の書棚を1時間くらい隈無く眺めてやっと一冊選んで買った頃の嬉しさが蘇るからぼろぼろになっても捨てられない。
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